これまでの研究において、豆乳とオカラの混合物を植物由来乳酸菌(Lactobacillus delbrueckii subsp. delbrueckii SNC33株※1)で発酵させた乳酸発酵オカラ豆乳はラットの脂質代謝を改善することを報告しました1-3)。そこで、本研究では、乳酸発酵オカラ豆乳がラットの肝臓において脂質代謝を改善するメカニズムについて明らかにすることを目的とし、肝臓の脂質代謝に関わる遺伝子発現をDNAマイクロアレイ解析※2を用いて調べました。その結果、肝臓において脂肪酸とコレステロールの合成に関わる遺伝子の発現が抑制され、脂肪酸分解(β酸化)とコレステロール分解(異化)に関わる遺伝子の発現が促進されることが示されました。これらのことから、乳酸発酵オカラ豆乳によるラットの肝臓における脂質代謝の改善は脂質の合成抑制と分解促進に依存したメカニズムによることが示唆されました。
1) 日本食生活学会誌, 18(1), 74-77 (2007)
2) 日本食品科学工学会誌, 54(8), 379-382 (2007)
3) 武庫川女子大紀要(自然科学), 57, 47-54 (2009)
実験動物:5週齢Sprague-Dawley系ラット(雄)
2週間予備飼育した後、引き続き基準飼料を投与したコントロール群(n=5)、基準飼料のうち20%を乾燥乳酸発酵オカラ豆乳で置換した飼料を投与した20%乳酸発酵オカラ豆乳群(n=5)の2群に分け、7週間飼育しました。
乳酸発酵オカラ豆乳はオカラと豆乳を乾燥重量換算で1:2の割合で混合したものを植物由来乳酸菌(Lactobacillus delbrueckii subsp. delbrueckii SNC33株)で15時間発酵させたものを凍結乾燥し、飼料に用いました。
乳酸発酵オカラ豆乳がラットの肝臓において脂質代謝を改善するメカニズムについて明らかにするために、肝臓の脂質代謝に関わる遺伝子発現をDNAマイクロアレイ解析を用いて調べました。
血中総コレステロール濃度が、コントロール群と比較して20%乳酸発酵オカラ豆乳群で有意に低下しました(図1)。血中トリグリセリド(中性脂肪)濃度およびHDL-コレステロール/総コレステロール比には有意差は認められませんでした。
図1 7週間後の血中総コレステロール濃度
肝臓トリグリセリド(中性脂肪)濃度が、コントロール群と比較して20%乳酸発酵オカラ豆乳群で有意に低下しました(図2)。肝臓コレステロール濃度は低下傾向を示したものの、有意差は認められませんでした。
図2 7週間後の肝臓トリグリセリド濃度
DNAマイクロアレイ解析により、20%乳酸発酵オカラ豆乳群では、肝臓において脂肪酸合成に関わる遺伝子SREBP-1, ACC, FAS, GPAT, ME, Elovl 6とコレステロール合成に関わる遺伝子ACAT, LSSの発現が抑制されました。一方、脂肪酸分解(β酸化)に関わる遺伝子ECIとコレステロール分解(異化)に関わる遺伝子CYP7A1の発現が20%乳酸発酵オカラ豆乳群で、コントロール群と比較して1.5倍以上に促進されました。
DNAマイクロアレイ解析により、乳酸発酵オカラ豆乳によるラットの肝臓における脂質代謝の改善は脂質の合成抑制と分解促進に依存したメカニズムによることが示唆されました。
※1 Lactobacillus delbrueckii subsp. delbrueckii SNC33株(4408株)
今回使用したLactobacillus delbrueckii subsp. delbrueckii SNC33株は、赤カブの葉を無塩で発酵した長野県木曽地方で生産・商品化されている伝統発酵漬物「すんき漬け」から分離した植物由来乳酸菌です。本菌株は、東京農業大学岡田早苗教授より分譲頂き、使用許諾契約のもと「豆乳グルト」や「豆乳飲料オレンジヨーグルト味」、「豆乳+カルシウム350」などの商品に使用しています。
※2 DNAマイクロアレイ解析
DNAマイクロアレイ解析とは、スライドガラスなどの基板上にDNA(デオキシリボ核酸)断片を固定化した上で、相補的なDNA鎖同士で塩基対を形成する原理を利用して数多くの遺伝子を検出する技術です。生体や細胞内でDNAから転写されたmRNAをcDNAを変換した後にDNAマイクロアレイ解析で測定すると、数千から1万種類の遺伝子の動き(発現量の増減)を一度に解析することができます。