本研究では、豆乳とオカラの混合物(オカラ豆乳)およびこの混合物を植物由来乳酸菌(Lactobacillus delbrueckii subsp. delbrueckii SNC33株※1)で発酵させた乳酸発酵オカラ豆乳がラットの脂質代謝に与える影響を調べました。オカラ豆乳、乳酸発酵オカラ豆乳の投与により、ラットの血中総コレステロール濃度および肝臓トリグリセリド濃度が有意に低下しました。また、DNAマイクロアレイ解析※2により、腸間膜脂肪組織と肝臓において脂肪酸合成など脂質代謝に関わる遺伝子の発現が抑制されることが示されました。これらのことから、オカラ豆乳の投与はラットにおいて脂質代謝を改善し、その効果は乳酸発酵処理によりさらに促進されることが示唆されました。
実験動物:5週齢Sprague-Dawley系ラット(雄)
2週間予備飼育した後、引き続き基準飼料を投与したコントロール群(n=5)、基準飼料の20%を乾燥オカラ豆乳で置換した飼料を投与した20%オカラ豆乳群(n=5)および乾燥乳酸発酵オカラ豆乳で置換した飼料を投与した20%乳酸発酵オカラ豆乳群(n=5)の3群に分け、7週間飼育しました。
オカラ豆乳はオカラと豆乳を乾燥重量換算で1:2の割合で混合したものを用いており、また、乳酸発酵オカラ豆乳はこの混合物を植物由来乳酸菌(Lactobacillus delbrueckii subsp. delbrueckii SNC33株)で15時間発酵させたものを凍結乾燥し、飼料に用いました。
腸間膜脂肪(内臓脂肪)組織および肝臓の脂質代謝に関わる遺伝子発現を、DNAマイクロアレイ解析により調べ、乳酸発酵処理の効果を検討しました。
血中総コレステロール濃度が1週目で両試験群ともにコントロール群と比較して低下し、その後も低値を維持する傾向を示しました。コントロール群と比較して20%オカラ豆乳群では3週目以降有意に低下し、20%乳酸発酵オカラ豆乳群では5週目に有意に低下しました(図1)。血中トリグリセリド濃度および血糖値には有意差は認められませんでした。
図1 飼育期間中の血中総コレステロール濃度
肝臓トリグリセリド(中性脂肪)濃度が20%オカラ豆乳群および20%乳酸発酵オカラ豆乳群の両群で、コントロール群と比較して有意に低下しました(図2)。肝臓コレステロール濃度は、両試験群においてコントロール群よりも低下傾向を示したものの、有意差は認められませんでした。
図2 7週間後の肝臓トリグリセリド濃度
DNAマイクロアレイ解析により、両試験群で、腸間膜脂肪(内臓脂肪)組織では脂肪酸合成に関与する酵素の発現を調節する転写因子であるSREBP-1、それによって制御される脂肪酸合成関連の4つの遺伝子(ACC, FAS, GPAT, ME)の発現が抑制されました。20%乳酸発酵オカラ豆乳群では、これらの遺伝子が20%オカラ豆乳群よりもさらに大きく抑制されました。
肝臓では、コントロール群と比較して、20%オカラ豆乳群で脂肪酸分解に関与する遺伝子CPT-Ⅰとコレステロール分解(異化)に関与する遺伝子CYP7A1の両方の発現が、20%乳酸発酵オカラ豆乳群では後者の遺伝子のみの発現が促進されました。また、両試験群で、脂肪酸合成関連の遺伝子SREBP-1, ACC, FAS, GPAT, MEとコレステロール合成関連の遺伝子DHCRの発現が抑制されました。FAS, GPAT, MEは20%オカラ豆乳群のほうが20%乳酸発酵オカラ豆乳群よりも強く抑制されました。
乳酸発酵処理の有無によって、肝臓においてラットの脂質代謝メカニズムに与える影響が異なり、オカラ豆乳の投与によりコレステロール異化が促進され、一方、乳酸発酵オカラ豆乳の投与によってはコレステロール合成が抑制されると考えられます。
オカラ豆乳の投与はラットにおいて脂質代謝を改善し、その効果は乳酸発酵処理によりさらに促進されることが示唆されました。したがって、乳酸発酵オカラ豆乳にはメタボリックシンドロームの予防効果が期待されます。
※1 Lactobacillus delbrueckii subsp. delbrueckii SNC33株(4408株)
今回使用したLactobacillus delbrueckii subsp. delbrueckii SNC33株は、赤カブの葉を無塩で発酵した長野県木曽地方で生産・商品化されている伝統発酵漬物「すんき漬け」から分離した植物由来乳酸菌です。本菌株は、東京農業大学岡田早苗教授より分譲頂き、使用許諾契約のもと「豆乳グルト」や「豆乳飲料オレンジヨーグルト味」、「豆乳+カルシウム350」などの商品に使用しています。
※2 DNAマイクロアレイ解析
DNAマイクロアレイ解析とは、スライドガラスなどの基板上にDNA(デオキシリボ核酸)断片を固定化した上で、相補的なDNA鎖同士で塩基対を形成する原理を利用して数多くの遺伝子を検出する技術です。生体や細胞内でDNAから転写されたmRNAをcDNAを変換した後にDNAマイクロアレイ解析で測定すると、数千から1万種類の遺伝子の動き(発現量の増減)を一度に解析することができます。